研究課題
黒毛和種牛に発生する多発性眼球形成異常症(MOD)は、常染色体単一劣性の遺伝性疾患であり、発症個体では出生時より水晶体や虹彩が外観上認められず完全に盲目である。本研究では本疾患の発症を予防し、その遺伝的要因を黒毛和種集団中から排除することを目的として、MODの原因遺伝子とその変異を特定し、本疾患のキャリア個体を同定するための遺伝子診断法を確立することを試みた。単一の種雄牛に由来する21個体の発症個体を含む4世代計110個体の血液あるいは精液を採取し、DNAを抽出した。これらのDNAサンプルについて、ウシの全染色体を網羅する240のマイクロサテライトマーカーの遺伝子型を判別し、疾患との連鎖を解析したところ、本疾患の発生と、ウシ第18染色体上のマーカーとの間に有意な連鎖が認められた。そこで、ウシゲノム配列より得られた、この領域に存在するマイクロサテライトDNAを新たなマーカーとして用いたホモ接合体マッピング法により解析した。その結果、疾患原因遺伝子の染色体上の位置を第18染色体上の約6.6cMの領域に特定され、ウシのゲノム配列および対応するヒトのゲノム配列から、この領域には約20の機能的遺伝子が存在することが判明した。つぎにこれらの遺伝子の全塩基配列を決定し、正常個体と発症個体の間で比較したところ、そのうち一つの遺伝子に発症個体に特異的な1塩基の挿入が認められた。この1塩基の挿入は翻訳領域内に生じており、その結果フレームシフトを引き起こし、変異遺伝子からはC末端側の欠失した、機能を喪失したタンパク質しか生成されないことが推測された。また、黒毛和種の集団中ではこの塩基挿入は発症個体の家系にのみ認められた。以上のことから、本遺伝子における1塩基の挿入が黒毛和種の多発性眼球形成不全症の原因であることが結論づけられた。
すべて 2006
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