性成熟や妊娠に伴う乳腺の発達、泌乳、その後の乳腺組織の退縮は性ホルモンや下垂体ホルモンによって調節される。それらは乳腺上皮細胞に直接作用するのみならず、間質脂肪細胞より分泌される因子を介して上皮機能を調節する。 そこで間質脂肪細胞のモデルとして3T3-L1細胞を用い、エストラジオール(E)とプロジェステロン(P)による肝細胞増殖因子(HGF)と上皮細胞増殖因子neuregulin(HRG)の発現分泌調節を調べた。HGFの発現は前駆脂肪細胞で強く、細胞を脂肪細胞に分化させると顕著に減少し、HGFタンパクの発現も同様であった。EはHGFの発現を濃度依存性に高めたが、Pは10nMまでは増強するものの、1000nMでは発現に影響しなかった。EとPで共刺激するとP 10nMでは相加的に作用したが、P 1000nMではEの作用を減弱させた。またHGFタンパクの発現はmRNAの発現にパラレルであった。つまりHGFの発現分泌はEとPの濃度に依存して大きく変化することが示唆された。一方、HRGの発現も前駆脂肪細胞で強く、細胞を脂肪細胞に分化させると顕著に減少したが、HRGタンパクの発現は脂肪細胞分化後も変化しなかった。活性化型HRGが生じるにはADAM17による切断が重要であるが、ADAM17の発現が分化前後で変化しないのに対し、ADAM17の内在性阻害タンパクTIMP3の発現が分化により有意に減少した。つまり、成熟後のHRG分泌は相対的に切り出し活性が高まったものと考えられた。なおHRG遺伝子の発現は前駆あるいは成熟脂肪細胞のいずれにおいてもEやPの処理で変化しなかった。 次に、脂肪細胞分泌因子の様々な乳癌細胞の増殖応答に対する作用を調べたが、正常な乳腺上皮細胞の増殖を抑制したレプチンを用いても何ら影響は示さなかった。今後さらに継続して他の分泌因子の作用についても検討する予定である。
|