マスト細胞にはSLP-76とMISTの2つのSLP-76ファミリーアダプター分子が発現しており、いずれも、高親和性IgE受容体(FcεRI)を介したマスト細胞の脱顆粒反応に関与していることが明らかになっているが、その機能的相補性、特異性ならびにその分子構造の差異と機能の関連性については明らかになっていない。そこで、MISTの様々な機能ドメインの変異体ならびにSLP-76に存在する機能ドメインを移植した変異体を用いて、これら2つのアダプター分子のFcεRI刺激に伴う分子間相互作用、細胞内局在の変化と機能との関連について解析を行った。その結果、1)SLP-76はGadsと結合できるが、MISTは結合しないこと、2)SLP-76のGads結合ドメインをMISTに移植することにより、MISTの膜へのリクルートがSLP-76と同程度に増強すること、3)Grb2結合ドメインを欠くMIST変異体も野生型MISTと同程度に膜にリクルートされるが、非機能的SH2ドメインをもつMIST変異体のFcεRI刺激に伴う膜局在は認められないこと、4)MISTはFcεRI誘導性の脱顆粒反応をわずかにしか増強させないが、SLP-76と同程度の膜移行が認められるGads結合ドメインを有するMIST変異体は、SLP-76を導入した場合と同レベルの増強効果を示すこと、が明らかになった。 以上の研究成果は、シグナル分子複合体の量的差異だけでなく、シグナルを下流に伝達する質的差異によって、FcεRIを介したマスト細胞の脱顆粒反応が制御されていることを明らかにしたものであり、I型アレルギー発症におけるマスト細胞活性化の制御機構を解明する上で重要な基礎的知見である。
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