研究概要 |
本研究は,リーシュマニア症の総合的診断システムの確立とドラッグデリバリーシステムを用いた新規治療法を開発することで,わが国における輸入リーシュマニア症の先駆的予防対策に貢献するとともに,流行国におけるリーシュマニア症の疫学調査・研究推進のためのツールを開発して国際医療に貢献することを目的として計画された。本年度は,パキスタン南部のインダス河流域と西部の山岳地帯における病因原虫種の解析をさらに進め,前者の皮膚リーシュマニア症患者の病変からおもにL.(L.)majorがPCR法で検出され,後者においてはL.(L.)tropicaがおもに検出された。この結果は,両原虫種の分布状況のこれまでの調査結果と一致したが,一部では患者の移動が示唆された。次に,インダス河流域の流行地でサシチョウバエ507匹を採取して,18SリボソームRNA遺伝子を解析した。その結果,雌174匹のうちの8.2%はL.(L.)majorを媒介することが知られているPhlebotous papatasiである可能性が強く示唆された。3.4%はP. alexandri様のサシチョウバエ,残りの88.4%はPhlebotomusに近縁のSergentomyia属のサシチョウバエであった。さらに,吸血した雌の血液DNAを解析した結果,Phlebotomus属からはウシとヤギのミトコンドリア遺伝子が検出された。一方,変温動物を吸血されると記載されているSergentomyia属のサシチョウバエからはヒト,ウシ,スイギュウ,ヤギ,ネズミなど様々な哺乳類のミトコンドリア遺伝子が検出された。以上より,パキスタンの皮膚リーシュマニア症を媒介する昆虫種と保虫宿主については複雑な伝播機構が想定され,今後さらなる研究が必要である。
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