研究概要 |
(+)-ビオチン(Btn)は、アビジン(Avn)と非常に安定な複合体を生成する。その解離定数Kdは約1fMであり、通常の抗原-抗体複合体の100万倍も強く、実質上不可逆である。本研究は、申請者らが発見したCaged化合物(8-quinolinyl sulfonates, QS)の光分解反応を利用することにより、光分解性Btn標識試薬の開発を目的とした。中性pH、常温という温和な条件下、光照射によってリガンド-レセプター複合体をintactな状態で回収し、特異的レセプターの同定、構造解析を行うための全く新しいBtn-Avnシステムを提供する。 脳内神経伝達分子であるドーパミンを、光分解性QSリンカーを介してビオチンに結合した化合物(Biotin-Dopamine-HQ)の合成を行った。Biotin-Dopamine-HQと抗ドーパミン抗体(IgG)、および二次抗体(抗IgG抗体)を用いてELISAを行い、Avn、Biotin-Dopamine-HQ、IgG、抗IgG抗体の四者の複合体が生成することを確認した。さらにAvn、Biotin-Dopamine-HQ、IgGの三元複合体に光を照射し、リンカーが分解できることを確認し、分解後のDopamine-IgGの、Western blottingによる検出に成功した。以上の結果は、すでに論文発表された(Bioorg. Med. Chem. 2009, 17, 3405-3413)。 また、上記の化合物もよりも長いリンカーを有するビオチン標識リンカーの合成にも成功した。同様にELISA、Western blottingを行ったところ、リンカーの延長は抗体との複合体形成、光分解にDopamine-抗体複合体の回収率に大きな変化はなかった。本結果についても、論文投稿の準備中である。さらに、本技術の基盤となるQS基質の光分解反応の反応機構についても詳細に検討し、論文投稿済みである。 このように、本研究ではQS基質の新規光分解反応の発見、反応機構の解明を行い、それを光分解性Btn標識リンカーにまで応用した。現在、光分解性リポソームなどにも展開可能であり、今後が期待される。
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