本研究では、WRNのDNA複製、修復における役割を明らかにすることにより、ウェルナー症候群患者の染色体の不安定化による発癌と、糖尿病を初めとする老化関連疾患の発症の分子機構の解明を目指した。解析にあたっては、酵母のモデル系を使ってWRNやWRNIP1(我々が発見したWRNに結合するタンパク質)とDNA polymeraseδとの機能的関連に関する情報を得るとともに、ニワトリのDT40細胞を用いて種々の遺伝子破壊株を作製し、これらの破壊株を用いてWRNが関与する修復経路を遺伝学的に決定することを試みた。さらに、WRN、WRNIP1の機能を明らかにするために、精製酵素・タンパク質を用いた生化学的解析も行った。酵母を用いた解析ではPolδのサブユニットのPol31の変異株を多数分離し、WRNやWRNIP1とPol31との機能的関連に関する情報を得ることができた。また、DT40細胞の遺伝子破壊株用いてWRNが関与する経路の同定を試み、WRNがRAD52とともに機能する可能性があることが示唆する結果を得ることができた。また、DNAの傷害の種類によっては、WRNとRAD18が同一の経路で機能することが判明した。さらに、WRNIP1もDNAに特定の傷害が生じた場合にはRAD18が機能する経路で働くことが示唆された。また、細胞や精製したタンパク質を用いた解析からWRNIP1とRAD18が直接結合することが判明した。最後にWRNの機能と酸化ストレスとの関係を解析するために、スーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子(SOD1、SOD2)の条件欠損株の作製し、その解析を行った。SODの条件欠損株の解析ではWRNの機能と酸化ストレスとの関係を解明するまでには至らなかったが、解析を進めるための基盤を確立することができた。
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