血小板凝集は心筋梗塞、脳梗塞、動脈硬化、慢性頭痛、片頭痛、回転性めまいなど様々な疾患の発症に関与している。がんの転移においても血小板凝集の関与が知られている。実際に高転移性がん細胞は血小板凝集能を有することが多く、できあがった大きな凝集塊が腫瘍塞栓を形成することにより転移形成を助長するとされる。しかし、がん細胞膜上に発現している血小板凝集促進因子は同定されていなかった。 研究代表者は、がん細胞膜上に発現している新規血小板凝集促進因子の遺伝子クローニングに成功し、この分子をAggrusと命名した。本申請課題では、Aggrus変異タンパク質を恒常的に発現するCHO細胞株を多種類作製し、血小板凝集活性との相関を検討した。その結果、ヒトAggrus上の血小板凝集誘導活性に必須な部位として34番目と52番目のスレオニン残基を同定した。これら部位をアラニンに置換して糖鎖が付加されない状態にしたT34A、T52Aでは血小板凝集活性が全く認められないことから、これら部位に付加している糖鎖が血小板凝集誘導活性に深く関与していることが示唆された。さらにこのT34A、T52A-Aggrus発現細胞株の、in vivoにおける転移能を検討した結果、野生型Aggrusを発現させて起こる肺転移が、T34AとT52Aでは全く起こらなくなることが明らかとなった。さらに、T34A、T52A-Aggrus発現細胞株を移植したマウスは、野生型Aggrus発現細胞株移植の際に観察される生存率減少が起こらないことも確認された。細胞を蛍光ラベルすることにより、in vivoでの肺における腫瘍塞栓形成を検討した結果、T34AとT52Aは肺における腫瘍塞栓形成数が有意に減少していた。以上の結果より、Aggrusの機能発揮には、34番目と52番目のスレオニン残基を含むPLAG1とPLAG3ドメインが関与していることが明らかとなった。
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