研究概要 |
染色体末端に存在するテロメア構造の中でも、最末端部分にあるテロメアの一本鎖DNA(G-tail)は、染色体の安定性に非常に重要である。G-tail短縮による染色体の不安定化は、細胞内の機能にも影響を及ぼし老化誘導が起こる。そこで、我々はヒト繊維芽細胞、ヒト血管内皮細胞およびテロメア一本鎖DNAに結合するタンパク質POT1のノックアウトマウスを用いて解析を行った。ヒト繊維芽細胞では、テロメラーゼ遺伝子hTERTをレトロウイルス法で導入しテロメアの延長とともにテロメアG-tailの延長が起きるかどうかを調べた。テロメアの延長とともに、老化マーカーp21の発現増加は阻止された。このときテロメアG-tailの延長も見られた。血管内皮細胞では、hTERTの導入によりテロメアの延長とテロメアG-tailの延長が見られた。血管内皮細胞の分化能マーカーであるvWF(von Willebrand factor)発現やtube formation能力などが維持されていた。つまり、hTERTによるテロメアG-tailの延長により細胞の分化能維持ができることが明らかになった。但し、血管内皮細胞で正常細胞の性質はほとんど維持されているものの、血管内皮細胞に特徴的な培養に伴う染色体異常(特に染色体13番の欠落)はhTERTにより防ぐことはできなかった。染色体異常があるhTERT導入血管内皮細胞を200代以上培養した場合でも正常細胞の性質が維持されていることから、この欠失自体ががん化などに進む可能性は低いものと考えられる(Anno, K.BBRC,2006)。POT1ノックアウトマウスを用いた解析では、POT1aをノックアウトした場合予想外にテロメアG-tailの延長が見られたが染色体異常、p53依存的な細胞老化が誘導された。一方、POT1bの変異体を用いた実験では、G-tailの短縮、細胞老化が誘導された。以上、本研究によりテロメアのG-tailが染色体異常や細胞老化の誘導に重要であることが明らかになった。
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