研究課題
心臓には、収縮・弛緩のサイクルをつかさどる心筋細胞のほかに、コラーゲンなどの細胞外マトリックスを産生する心線維芽細胞が存在している。2種の細胞はお互いに制御を受けていると考えられ、実際に心筋より分泌された因子が心線維芽細胞のコラーゲン合成を促進させることが知られている。我々は、心筋細胞の肥大応答に関わる分子としてTransient Receptor Potential Canonical(TRPC)チャネルを同定している。TRPCチャネルは、ほとんどすべての細胞に発現していること、また心筋では肥大応答という重要な役割を果たしていたことから、心線維芽細胞でも何らかの役割を担っていると考えられ、その役割を解析した。心線維芽細胞をエンドセリン-1で刺激すると、Gα_<12/13>を介して活性酸素産生が増加する。活性酸素はMAPキナーゼのJNK活性化を引き起こし、線維化の指標であるα-平滑筋アクチンやコラーゲンの合成が亢進させた。同時に、JNKはTRPC6の発現を増加させた。エンドセリン-1刺激はGα_<12/13>を介した活性酸素産生のほかに、TRPC6を活性化し細胞内へのCa^<2+>流入を促進させた。増加したCa^<2+>は転写因子NFATを活性化させた。NFATは未知のメカニズムで活性酸素産生を抑制するように働き、結果としてJNKの活性化さらに線維化応答を抑制した。すなわち、線維芽細胞ではTRPC6を介したCa^<2+>流入はNFATを活性化し、線維化応答を抑制するように働いていた。これらの結果を考え合わせると、受容体刺激によりTRPC6の発現が亢進しない通常の状態でも、TRPC6は線維化を抑制するように働いていると推測できる。したがって、TRPC6は心筋細胞では心肥大を仲介する分子として働き、線維芽細胞では線維化を抑制するように働いていることが明らかになった。線維化は心肥大形成に伴って進行することから、TRPC6は圧負荷などのストレスに対する過剰な応答を抑制するように働いているといえる。
すべて 2007
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