研究課題
本研究では、新規薬物標的の候補として3種類のPGE合成酵素(mPGES-1、mPGES-2、cPGES)に着目し、これら酵素群の生体内機能を明らかにすることを目的している。本年度はmPGES-1欠損マウスを用い、急性炎症及びがん疾患におけるmPGES-1の関与について解析した。(1)急性炎症におけるmPGES-1の解析:カラゲニン胸膜炎及びチオグリコレート誘導腹膜炎の各モデルにおけるmPGES-1の関与を解析した。カラゲニン胸膜炎において、mPGES-1欠損マウスでは対照マウスと比較して、起炎剤投与16時間後の胸腔内浸出液量と浸出細胞数が有意に低下した。またチオグリコレート誘導腹膜炎において、起炎剤投与後3時間の浸出細胞数の有意な低下が認められた。このことは、mPGES-1を標的とした薬物が、当グループで既に論文報告した慢性期炎症(リウマチ関節炎)だけでなく、急性期炎症にも有用な新規抗炎症薬となる可能性を示唆している。(2)がん疾患におけるmPGES-1の解析:これまでの当グループにおける解析により、mPGES-1欠損マウスでは、がん細胞移植による腫瘍増殖や血行性転移が有意に軽減することが明らかとなっている。そこで本年度はmPGES-1の作用機構について、より詳細な解析を実施した。がん細胞の血行性転移を検討したところ、mPGES-1欠損マウスのがん転移肺では、野生型マウスと比較してマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-9活性、及びVEGF発現の顕著な低下が認められた。さらにsiRNA法によりmPGES-1発現抑制肺がん細胞株を樹立し、その悪性度を培養系で検討したところ、細胞増殖能及び細胞浸潤能の有意な抑制が認められた。このことはmPGES-1を標的とする新規阻害薬が抗炎症薬のみならず、がん性血管新生やがん細胞浸潤の抑制作用により、抗悪性腫瘍薬としても有用である可能性を示唆している。
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