研究概要 |
本研究はメチル水銀の神経細胞特異的な毒性発現がその微小環境の変化に起因するという作業仮説に立脚し,微小環境の構築と細胞の機能調節因子に活性調節に重要な役割を果たしている分子であるプロテオグリカンの代謝異常を解明しようとするものである。実際,病理学的知見として,メチル水銀が脳組織において浮腫を形成させ,そのことによって生じた循環障害が神経細胞を変性させ得ることが報告されている。本年度は,メチル水銀の標的組織としての脳微小血管の機能について検討し,以下の結果を得た。(1)脳浮腫に係る因子として重要とされるVEGFの発現について検討し,メチル水銀が少なくとも遺伝子発現レベルにおいてPIGFおよびそのレセプターであるVEGFR-1の発現を上昇させることを見出した。(2)一方,脳微小血管内皮細胞層の維持に重要な役割を果たすとされるVEGF-Aは,抗血栓特性(ヘパリン様活性)を示しFGF-2のレセプターへの結合を加速するヘパラン硫酸プロテオグリカンの大型分子種パールカンの合成を,ヘパラン硫酸糖鎖の長さや二糖組成を変えることなく誘導することが明らかにした。(3)また,内皮細胞層維持に対するメチル水銀の作用を検討し,メチル水銀が細胞層を傷害しないが増殖の阻害によって傷害後の修復を遅延させることを明らかにした。現在,メチル水銀投与ラットを用いて,組織病理学的な手法を用いて,神経細胞の変性とそれに関わる周囲の細胞種の変化,およびそれらが発現しているプロテオグリカン分子種の変化,さらには神経細胞の機能調節に重要なニューログリカンCの代謝に対するメチル水銀の作用を検討中である。
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