研究概要 |
メチル水銀の毒性発現について最も重要な未解決の問題は2つある。ひとつはメチル水銀の神経細胞に対する毒性発現を担う分子標的であり,もうひとつは成人水俣病患者の脳神経細胞障害が深い脳溝付近に局在するメカニズムである。我々は,脳微小血管を構成する内皮及び周皮細胞にメチル水銀の分子標的があり,血管の機能障害による二次的な神経細胞障害がメチル水銀の神経細胞特異的な毒性発現をもたらすと考えている。過去の研究から,その分子標的はプロテオグリカンが関与する生体システムであると推察されたので,脳微小血管内皮及び周皮細胞の培養系を用いて平成18年度に引き続き検討した。また,脳特異的プロテオグリカンであるニューログリカンCの代謝に対するメチル水銀の作用をラット脳神経細胞で検討し,さらにメチル水銀中毒ラットの脳に関する組織学的検討も開始した。 (1)周皮細胞がメチル水銀に対して高い感受性を示すだけでなく,傷害を受けるときにVEGFの発現が顕著に上昇することを見いだした。内皮細胞ではP1GFとその受容体であるVEGFR1の発現が上昇していた。メチル水銀が脳微小血管において,VEGFシステムのオートクリン及びパラクリン作用を介して脳浮腫を発生させ,それによって神経細胞障害が生じるという仮説が支持された。 (2)メチル水銀が周皮細胞においてヘパラン硫酸プロテオグリカンの小型分子種シンデカン-4の発現を誘導することを明らかにした。 (3)メチル水銀は神経細胞のニューログリカンCの代謝には影響を及ぼさないことが分かった。 (4)後肢交差が認められるメチル水銀中毒ラットの脳では,顆粒細胞に特に著明なアポトーシスが観察された。プロテオグリカン分子種の免疫組織学的検討を実施中である。 結果を総合的に見たとき,我々が提案している仮説「メチル水銀の毒性は血管障害から神経細胞傷害ヘプロテオグリカン代謝異常を通じて発展する」がメカニズムのひとつとして存在することが示唆されている。
|