本研究では、マイクロRNA(miRNA)が薬物誘導性肝障害発症に及ぼす役割について、マウスおよびラットに典型的な肝障害を惹起させて検討した。ハロタン、フルタミド、アセトアミノフェンについて、肝障害の有無によりmiRNAの発現の種類と量について検討した。その結果、肝障害に伴って変動をするmiRNAをいくつか同定したが、バイオマーカーとして確立するには至らなかった。ハロタン肝障害モデルマウスにおいては、miRNAよりも信頼性の高い新規のバイオマーカーとしてIL-17を同定した。一方、miRNAが肝における薬物代謝の恒常性および誘導性に変化を与えるという仮説のもとに、基礎的実験も同時に遂行した。その結果、(1)ヒト肝で最も発現量が高く、臨床で使用される薬の半数以上の代謝に関わるCYP3A4について、PXRを介してmiR-148aによって転写後調節されていることを発見し、2008年に論文とした。(2)細胞増殖の抑制効果で知られる活性型ビタミンD_3のレセプターの発現にmiR-125bが関与していることを発見し、2009年のIntern J Cancerに発表した。(3)さらに、アセトアミノフェンの代謝的活性化に主たる役割をしめすCYP2E1について検討した。CYP2E1は古くから酵素の発現量とmessengerRNAの発現量が相関しないことが知られていた。ヒト肝で低分子の薬物および環境化学物質の代謝的活性化に関わるCYP2E1にmiR-378が関わり、個体差の原因になっていることを見出した。この結果については現在論文を作成中であり、2009年6月のP450の国際学会で発表予定である。以上、本研究においては、薬物誘導性の肝障害の直接的なバイオマーカーの確立には至らなかったものの、代謝的活性化に関わるCYPを中心とした複数の代謝酵素について、miRNAによる発現調節を説明できたことは大きな成果であると考える。
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