ヒト血清アルブミン(HSA)は古くから血漿増量剤として臨床現場で繁用されてきた一方で、生体分解性や免疫原性、変異原性が少なく、比較的長い血中滞留性を有しているため、薬物のドラッグデリバリーシステム(DDS)の担体としての可能性が追求されてきた。本研究は、近年、アルブミンのリガンド結合能や抗酸化能に着目して、アルブミン自身を医薬品に活用する新しい試みの一環として、当研究室において構築された遺伝子組換え技術を基に、高いリガンド結合能や血中滞留性などが付与された、安全性、有効性かっ経済性に優れた機能性アルブミンを設計し、DDSへ応用するとを目的としている。検討の結果、HSAを用いた細胞保護・生存・血管新生のシグナル分子である一酸化窒素(NO)の優れた生体内輸送システム(NOトラフィックHSA)の構築に成功した。具体的には、Cysを導入した異型アルブミンの一つであるR410Cを用いた担体や化学的にSH基を導入したSH基高付加HSA、マンノース糖鎖修飾HSAやHSA二量体を用いた担体の作製後、S-ニトロソ化を行い、虚血再灌流障害に対する保護効果や癌細胞に対する抗癌効果がin vitro、in vivo共に認められた。一方融合タンパク質としての応用では、抗酸化タンパク質であるチオレドキシンをHSAに融合させたものを作製し、体内動態の解析結果から高い安定性と血中滞留性が、in vivoでの生物活性の解析から、敗血症モデルマウスでの生存率の改善が確認できた。今回得られた知見は、DDS製剤へのHSAの臨床応用を目指す上での重要な基礎資料になり得ると共に、更なる有用性を見出すため、より多くの病態モデルにて解析を行う予定である。
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