本研究では、細胞分裂時における染色体の挙動と構造変化を、主に構造的側面から解析することで、染色体の形成(凝縮)、分配(染色分体形成)、消失(脱凝縮)のメカニズムの解明を目指す。昨年度は、培養細胞をダブルチミジン法により同調させた後にDNA合成期にBromdeoxyuridine(BrdU)を短期投与し、分裂中期に移行した細胞の染色体上に取り込まれたBrdUを免疫染色する方法を開発したが、今年度はさらにその方法を改善し、BrdUの代わりに5-ethynil-2'-deoxyuridine(EdU)を投与しアジ化蛍光色素で発色させる方法を開発した。これにより、染色体に取り込まれたEdUのバンド状の蛍光パターンを明瞭に示すことができた。この方法と原子間力顕微鏡による高次構造観察所見を組み合わせて、ヒト1番染色体と2番染色体の解析を行った結果、DNA合成期の前半にEdUを取り込ませた細胞の染色体では、Rバンドに類似のバンドパターンが、またDNA合成期の後半に取り込ませた染色体ではG/Qバンドと類似したバンドパターンが認められた。以上の所見は、DNA合成期におけるDNA複製の開始部位や複製のタイミングは各染色体によって一定で、RバンドやG/Qバンドと関連していることを示すものである。細胞分裂における染色体のトポイソメラーゼIIαの動態とも関係付けてさらに解析を行い、染色体の腕上に凝縮度の異なる部位が存在する意義を解明する予定である。染色体の動原体部分の走査電顕解析については最終年度に譲る。
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