研究概要 |
胃酸(塩酸:HCl)のH^+は胃プロトンポンプ(H^+,K^+-ATPase)により分泌されるが、塩素イオン(Cl^-)を輸送する分子実体は確定されておらず、塩酸分泌機構の全容は未解明である。本研究では、CLC-5塩素イオンチャネルおよびK^+-Cl^-共輸送体(KCC4)による胃プロトンポンプ共役型塩素イオン分泌の分子生理基盤について研究を進め、以下のような興味深い知見を得た。 ブタ胃粘膜標本の分別遠心により、胃細管小胞に富む膜画分(GIベシクル;酸分泌休止状態に対応する)および分泌膜に富む膜画分(SAベシクル;酸分泌刺激状態に対応する)をそれぞれ調製した。H^+,K^+-ATPaseはSAベシクルにおいて、界面活性剤のCHAPS(0.5-1%)に不溶性の画分に局在していたが、GIベシクルにおいては、CHAPSに不溶性および可溶性の両画分に分布していた。 KCC4に対する抗体を作製し、KCC4がSAベシクルにおいて高レベルで発現していることを見出した。一方、GIベシクルにおいてKCC4の発現レベルは低かった。 H^+,K^+-ATPaseを安定発現させたHEK293細胞における、CLC-5 Tet-on systemを用いた免疫沈降の結果、H^+,K^+-ATPaseとCLC-5は分子会合していたが、内因性Na^+,K^+-ATPaseとCLC-5とは分子会合していないことがわかった。またCLC-5の発現により、H^+,K^+-ATPaseの酵素活性は有意に上昇したが、Na^+,K^+-ATPaseの酵素活性は全く影響を受けなかった。 したがってKCC4は胃プロトンポンプと共役した二次性能動輸送体としてCl^-を分泌し、CLC-5はプロトンポンプの活性調節因子として機能している可能性が考えられた。
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