研究概要 |
無麻酔動の細胞外液中の物質を体温に影響されず連続計測するための微量透析・測定システムを構築した。この計測システムと冬眠行動観察記録システムを用い、冬眠行動に応じた脳のエネルギー代謝変化に伴う抗酸化機構解明に向け、人工的に冬眠させたシリアンハムスター(Mesocricetus auratus)脳内の水溶性抗酸化物質を冬眠各相において計測した。冬眠相、冬眠からの覚醒相、冬眠中途覚醒相について、線条体に留置した微量透析プローブにより脳細胞外液を採取し、その後、同じ冬眠相で採取した脳組織の水溶性抗酸化物質(アスコルビン酸、グルタチオン、尿酸)をHPLC一電気化学計測法で測定した。 その結果、以下の明らかと成った点をまとめ公表した(BehavBrainRes 2006,BehavBrainRes 2007) 1.脳組織(主に脳細胞)中のアスコルビン酸、還元型グルタチオンは冬眠相により変化しないが、尿酸は中途覚醒相と比べ冬眠相ではおよそ半分のレベルにまで減少する。 2.細胞外液のアスコルビン酸は中途覚醒相と比べ冬眠相では5倍以上のレベルにまで増加し、覚醒に向かうに連れ減少する。 3.外液中の還元型グルタチオンレベルの変化はアスコルビン酸の変化と鏡像関係にある。 4.外液中の尿酸は冬眠からの覚醒途中、一過性に増加するが、それ以外の相では不変である。 5.微量透析プローブから周辺にキサンチン酸化酵素阻害剤を投与し、同様にして前述の抗酸化物質の消長を見た。 6.その結果、酵素阻害剤により、覚醒途中の尿酸の一過性増加は減弱され、アスコルビン酸の減少量も減弱された。 7.尿酸量増加は酸化ストレスの本体、活性酸素種の産生増加を示唆し、それが減少したことから、抗酸化物質としてのアスコルビン酸消費が減少したものと考えられる。
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