冬眠に伴う脳機能の変化と、冬眠行動の開始を予測するための指標を検索すべく、冬眠中のシリアンハムスター(体温約6℃)脳に放射性、非放射性の同位元素で標識した代謝基質(ブドウ糖、乳酸)を微量透析法により投与し、高速液体クロマトフラフィー法、核磁気共鳴法を用いて代謝産物の消長を追跡した。大腿静脈に慢性留置したチューブを通じて標識されたブドウ糖液を注入し、同様の計測を行なった。 1.血液中のブドウ糖濃度は、冬眠中もほぼ一定値に保たれていたが、投与された標識ブドウ糖の量は冬眠の時間経過に伴い減少した。2.脳組織中の抗酸化物質の中で、グルタチオンやアスコルビン酸のレベルは冬眠中も不変であったが、尿酸は1/2から1/3に減少していた。3.脳細胞外液中では、冬眠中アスコルビン酸レベルは高く、覚醒するに連れて低下した。尿酸レベルは冬眠中、覚醒時で変化無く、冬眠からの覚醒中、一過性に上昇した。グルタチオンのレベルは体温と同様な変化であった。4.この時、プリン体から尿酸への代謝阻害薬を投与すると、尿酸のレベルの一過性の上昇は抑制され、アスコルビン酸の減少も抑制された。これらの結果から、冬眠中も糖代謝は行なわれ、その血中レベルもよく維持されていることがわかった。冬眠経過につれて血中レベルが減少するジリスの仲間とは血糖利用の機構が異なると考えられる。また、冬眠からの覚醒時に推測される酸化ストレスに対して抗酸化物質してのアスコルビン酸機能が推定された。5.脳内の糖代謝関連物質のNMR法とHPLC法による測定の結果、脳組織中のグルタミン、グルタミン酸、GABAは冬眠中増加しているが、細胞外液中には検出されなかった。神経細胞-アストログリア細胞間のグルタミン-グルタミン酸シャトルが冬眠中は機能していないと考えられる。
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