前研究でアルツハイマー病(ア病)の神経細胞死が過剰産生されたTGFβ2のAPPへの結合によって引き起こされるという仮説を提唱し、ア病関連の神経細胞死を抑制するヒューマニン(HN)の細胞膜受容体がWSX-1/CNTFR/gp130の3量体からなることを示した。本申請ではこれらの仮説あるいは知見の妥当性をさらに検証した。また、HNの誘導体Colivelinの前臨床試験を遂行した。 (1)TGFbeta2説の検証:TGFβ2発現がtoxic Aβにより誘導され、in vitroでAβによる神経細胞死誘導系において関与することを証明した。 (2)TGFbeta2説におけるPS1の役割解明:TGFβ2/APP/JNK/NADPH oxidase/caspasesア病関連細胞死シグナル伝達系にPS1が必須であることを見いだした。またPS1とこの経路を結ぶ分子としてPOSHとMOCAを同定した。 (3)HN受容体の基本性格の解明:WSX-1のエクソン8ノックアウトマウス由来PCNではHNの効果が残存することから、全長WSX-1と同じく可溶型WSX-1も機能的HN受容体を構成しうることを示した。 (4)HN受容体以降のシグナル伝達経路の解明:STAT3以外にPI3K/Aktがかかわることを示した。 (5)HN受容体欠損マウスとFAD遺伝子高発現マウス交配による脳萎縮を伴うア病モデルマウスの作成:WSX-1-/-mマウスと我々が独自に樹立した変異PS1ノックインマウスを交配したマウスを作成中である。 (6)内因性HNあるいはHN様分子の同定:マウス睾丸組織にHNあるいは抗体とクロスする4kDの分子を見いだし、現在その構造を解析中である。 (7)受容体を刺激する神経細胞死抑制小分子のスクリーニング:HN受容体の構成分子であるCNTFRあるいはWSX-1と結合する小分子をscreeningし、候補小分子を得た。 (8)臨床応用を目指したHNの前臨床試験:Colivelinは鼻腔内投与で脳内移行し、抗ア病効果を示すことを発見した。また、もう一つのア病動物モデルである家族性ア病関連遺伝子高発現モデルマウス(Tg2576)に対してColivelinは著効した。
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