我々が発見以来研究を行ってきた、酸化LDL受容体LOX-1は、血管内皮および血管機能の病的変化において重要な役割を果たしていることがわかりつつある。本年度の研究では、この研究をさらに発展させ、マウス病態モデルを用いて、(1)C57BL/6バックグラウンドおよびLDLR欠損-C57BL/6バックグラウンドにおいて高脂防食により誘発される動脈硬化がLOX-1欠損で抑制されること、(2)左前下降枝結紮後の心筋梗塞・心機能・梗塞後リモデリングがLOX-1欠損により改善すること、および(3)血小板凝集がLOX-1欠損により減弱し、in vivoにおいては塩化鉄誘導血栓モデルにおいてやはりLOX-1欠損が決戦を抑制することを明らかにした。ただ、心不全におけるLOX-1の役割については、マウスモデルについては現時点で充分な解析結果が得られておらず、今後の検討課題である。 また、LOX-1が酸化LDLを結合するにとどまらず、血小板や白血球を結合するなどmulti-ligand receptorとして、多彩な機能を持つことから、循環器系以外のモデルについても検討を行った。(4)特にAPC遺伝子に変異を持ち、高脂血症を示す大腸ポリープモデルマウスであるMinマウスについて、LOX-1欠損がポリープの発生に対して抑制的に働くことを見出した。 一方、これらのLOX-1と関連した研究に加えて、血管機能に影響を与える新しい生理活性物質や代謝産物、およびそれらの受容体の検索も試みた。その結果、いくつかのアミロイド関連蛋白の受容体やホモシステイン代謝産物の受容体、シャペロカインと呼ばれるHSPが細胞外で機能する際の受容体などを同定することができた。これらの分子が明らかになってみると、老化や循環器病リスクと関連した物質がいかにして血管機能に影響を与えているかが容易に想像される結果となったが、その詳細については今後ノックアウトマウスなどにより検討していくこととする。
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