副腎皮質はステロイドホルモンの産生を通じ個体の恒常性の維持には欠くことのできない組織である。この組織は発生学上極めて興味深い特徴を持つことが知られている。この組織はその他の組織と同じく胎仔期にその形成が進むが、胎仔副腎細胞は胎仔期から出生後にかけて次第に成獣副腎皮質細胞に置き換わってゆくのである。この胎仔副腎皮質細胞と成獣副腎皮質細胞は形態と機能が異なることから、二種類の細胞が異なる起源をもつことが推測されてきたがその詳細は不明であった。本研究では胎仔副腎皮質特定期エンハンサーを用い、胎仔副腎皮質特定期にCre遺伝子を発現するマウスを作製し、Rosa-LacZ reporterマウスを掛け合わせることで、胎仔副腎細胞の細胞系譜を追跡した。その結果、成獣副腎皮質は胎仔副腎皮質に由来することが明らかになった。また、どの時期の胎仔副腎皮質が成獣副腎皮質に転換する能力を持つかを調べるために、ER-Creトランスジェニックマウスを作製し、同様にRosa-LacZ reporterマウスとの掛け合わせを行ったところ、胎齢13.5日以前の胎仔副腎皮質にはその能力が備わっていたが、それ以降では消失する。本研究では、副腎の発生初期に胎仔副腎皮質の一部が将来成獣副腎皮質に分化するよう運命決定されていることを明らかにした。
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