多くのサイトカイン、インスリンなどのホルモン、抗原など、様々な刺激によって、PI3Kが細胞膜の内側にリクルートされる。リクルートされたPI3KはPIP2の3位をリン酸化してPIP3を産生する。PIP3は二次メッセンジャーとしてはたらき、Akt/PKBをはじめとするさまざまな下流の細胞内シグナル伝達系を活性化することにより細胞の増殖、生存、遊走、代謝などの多様な情報伝達の役割を果たす。PTENはその蛋白発現低下消失が全悪性腫瘍の約半数で認められることから、PTENはp53に匹敵するがん抑制遺伝子の代表格に位置づけられるようになってきた。生化学的には、PTENはその主な基質をPIP3とする脂質ボスファターゼであり、細胞膜レベルでPI3K経路を負に制御する。我々はPTENの生体における機能を解析するためにPTEN全身欠損マウスを作製したが、このマウスは胎生早期に致死となったことから、次にPTENfloxマウスを作製し、平成19年度は主に肺胞上皮細胞におけるPTENの機能を解析することにした。 肺におけるPTENの役割を明らかにするために、我々の作製したPTENfloxマウスと、(tetO)7-CreランスジェニックマウスやSP-C-rtTAトランスジェニックマウスとを交配することによって、ドキシサイクリン投与依存性に肺胞細気管支上皮細胞特異的にPTENを欠損するマウスを作製した。胎生期にドキシサイクリンを投与したPTEN欠損マウス(E10-16)の90%は生直後に低酸素血症で死亡した。組織学的・生化学的解析によって、肺胞細気管支上皮細胞や筋線維芽細胞の過形成、肺胞上皮細胞の分化障害、サーファクタント蛋白の産生障害を認めることを明らかにし、これらによって、低酸素血症がひきおこされたものと考えられた。さらにPTEN欠損マウスでは肺幹細胞(BASC)の増加を認めた。このようにPTENは肺の形態形成や肺胞上皮の分化、肺幹細胞の維持に重要であることをはじめて明らかにした(J.Clin.lnvest.2007)。
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