研究概要 |
発達性の精神疾患は統合失調症、注意欠陥多動性障害(ADHD)や自閉症などを指し、人口の約0.3〜1%が罹患する重大な精神疾患である。遺伝のほかに発達中の環境因子、母体ウイルス感染や周産障害、出産時虚血、幼児ストレスなどに伴う脳内炎症関与すると言われている。本計画では、炎症性サイトカインによる脳発達の障害の実態を分子・細胞レベルで特定し、メカニズムを明らかにすることである。 (1)脳部位特異的ノックアウトマウスの解析:EGF受容体(ErbB1)遺伝子のLOXPノックアウトマウスとドーパミントランスポーター遺伝子で駆動するCREマウスを交配させ、脳内ドーパミン神経特異的なノックアウトマウスを作製した。まだ動物数が少ないので確定的なことは現段階ではいえないが、ドーパミン神経発達影響が期待される。 (2)サイトカインのシグナル阻害剤の効果とその解析:サリドマイドを始めとするフタルイミド系化合物はIKK活性化を抑制し、炎症シグナルを低下させるといわれている。サリドマイドのPPI行動異常に対する効果については、いずれのモデルでも極めて微弱であったが、それらの社会行動指標は有意に改善させた。また、抗精神病薬の一つ、リスぺリドンには、脳内ErbB1シグナルを抑制する効果があることも今回の実験で判明した。 (3) GABA,ドーパミン、シナプスへのサイトカインの効果の統合的理解:GABA神経におけるErbB1、ErbB4受容体の遺伝子発現は良く理解されているのに、ドーパミン神経でのそれは不明な点が多い。今回、ヒト、サル、マウスの中脳領域でErbB1、ErbB4mRNA発現をin situハイブリにより解析したところ、ドーパミン神経での選択的な発現が観察された。実際にもEGFやニューレグリン投与は発達中の中脳ドーパミン神経を活性化し、チロシン水酸化酵素のリン酸化を誘発しドーパミン合成を促進した。
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