研究概要 |
1.肺癌腫瘍組織内エストロゲン濃度の検索:外科手術的に摘出された肺癌組織60例における腫瘍内estradiol(E2)濃度を腫瘍部、非腫瘍部総計120検体で液体クロマトグラフィー・タンデム型質量分析(LC-MS/MS)法を用いて測定した。E2レベルは男女を問わず腫瘍部位で非腫瘍部よりも有意に高い結果を示し、腫瘍部,非腫瘍部いずれも男性が女性より高値であった.実際の腫瘍組織内E2濃度は乳癌組織の1/10程度であるが,腫瘍部/非腫瘍部のEの比率は約2倍程度と乳癌組織とほぼ同様であった.E2濃度と肺癌細胞でのエストロゲン受容体(ER)α及びβの発現動態の間に有意の相関関係は認められなかったが、ERα陽性,ERβ陽性いずれの肺癌においても,組織内E2濃度は最大腫瘍径,Ki-67 Llと正の相関を認めた.この関係はER陰性のものでは認めなかった.以上の結果より乳腺組織と比較して合成されるホルモンの絶対量は少ないものの,ヒト肺癌組織でもE2の局所合成が行われている可能性が示唆された. 2。エストロゲンの肺癌細胞の細胞増殖への影響:ヒト肺癌組織内で合成されるエストロゲンが実際の肺癌細胞の増殖動態にどのような影響を与えているのかを肺癌の培養細胞を用いて検討した。ERα,ERβをtransfectionさせた細胞を用いた検討では肺癌組織内におけるE2濃度に相当するE2 10〜100pMにおいて,有意に細胞増殖を刺激し、エストロゲン受容体の特異的拮抗剤であるlCl化合物により抑制された.肺癌組織におけるERα,βの発現は、そのいずれを介してもE2による細胞増殖促進に関与している可能性がつよく示唆された.更に10〜100pMのE2による細胞増殖促進は1μMのTamoxifen,およびRaloxifenにより抑制され、SERMs(selective estrogen receptor modulators)の肺癌治療への応用も示唆される結果となった。
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