がん関連遺伝子のエピジェネティックな転写制御には、プロモーター領域に存在するCpG配列の高度メチル化とメチルCpG結合ドメイン(MBD)蛋白を介したヒストン修飾の変化が大きく関与する。本研究ではMBD蛋白による転写制御メカニズムの解明を目指し、1)MBD4の相互作用蛋白の解析、および、2)MBD依存性の転写再活性化を指標とするMBD制御遺伝子の探索をおこなった。 まず、MBD2、 MBD4の転写抑制に新たな因子、RFPが関与することを見出した。RFPはMBD2、MBD4の転写抑制活性を増強することから、RFPが高レベルで発現する精子形成、胚発生、腫瘍形成などの時期でメチルCpG配列を介した転写抑制において重要な働きをしている可能性が示唆された。 また、プロモーター領域の高度メチル化によりDNA修復遺伝子MLH1の転写抑制が見られるヒト胎児腎細胞株HEK293Tに対し、MBDにNFkBの転写活性化ドメインを繋いだDNAコンストラクト(NFkB(AD)-MBD)を導入したところ、MLH1の転写再活性化が見られた。この反応は、MBD依存的であり、プロモーター領域におけるDNAメチル化に変化は見られなかった。NFkB(AD)-MBDによるがん関連遺伝子の転写再活性化は、これまで解析した4つの細胞株、計10遺伝子ですべて観察されることから一般的な現象と考えられる。さらに、NFkB(AD)-MBDを導入したHEK293T細胞を用いたマイクロアレイ解析によりCDH1など多くのがん関連遺伝子に転写レベルの上昇が見られた。したがって、本方法によりMBD蛋白を介しエピジェネティックな転写制御を受けるがん関連遺伝子を網羅的に検出することが可能と考えられる。
|