研究概要 |
ゲノムにコードされる唯一の突然変異誘導酵素AIDが癌を誘導する分子機構を明らかにするため、AIDトランスジェニックマウスを用いた皮膚化学発がん実験を行った。10週令のAIDトランスジェニックマウス20匹の右側背部皮膚にDMBA 100nmol 1回塗布、TPA 5nmol 週2回反復塗布、左側にはTPA 5nmol 週2回反復塗布のみを行い、さらに野生型マウスにも同様の処置を行い、皮膚腫瘍の発生頻度を比較した。AIDトランスジェニックマウスは最初の腫瘍発生を見た実験開始後3カ月の時点で7割がTリンパ腫による死亡により失われており、野生型との公平な比較が困難な状況となった。腫瘍発生までにリンパ腫で死亡した個体を解析から除外するという条件で腫瘍発生頻度を比較すると[AIDトランスジェニックマウス,DMBA+TPA]>[AIDトランスジェニックマウス,TPA]=[野生型マウス,DMBA+TPA]>[野生型マウス,TPA]=0となった。このことより、AIDはDMBAを代替するイニシエーター活性を有することが示唆されたが、結論を得るにはリンパ腫で死亡しない条件で野生型と比較する必要があり、さらなる検討を要する。Tリンパ腫の抑制を目論んで、ヌードマウスの遺伝背景にAIDトランスジーンを導入するマウスを作成し、上記の実験を行ったが、ヌードマウスは免疫不全に起因する肺炎を頻発し、皮膚腫瘍発生前に死亡する個体が多く、これも結論が得られない結果となった。皮膚特異的にAIDを発現するケラチン14プロモーターを用いたK14-AIDトランスジェニックマウスは作成が完了し、皮膚での発現が確認できた。AIDノックアウトマウスは皮膚腫瘍誘導に抵抗性のあるC57BL/6の遺伝背景を持つため、皮膚腫瘍を誘導しやすいFVB/N遺伝背景に移入しつつあり、内在性AIDの皮膚腫瘍発生に及ぼす影響を検討する予定である。
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