研究概要 |
本研究は,網羅的な遺伝子の発現解析および逆遺伝学的手法を用いた機能解析の手法を用いて,スポロゾイトの肝臓感染の分子基盤を解明し,スポロゾイトを標的とする新たなマラリア感染阻止法を開発することを目的としておこなった。本研究における成果は以下の様に要約出来る。まずスポロゾイトが肝臓に感染するためには,「細胞通過」能が決定的な役割を果たしていることを明らかにした。すなわち,「細胞通過」はスポロゾイトが皮膚の内部を通過し循環系に入る過程および類洞壁を越えて肝類洞から肝実質へ侵入する過程でそれぞれ重要な役割を果たしていることが分かった。細胞通過能を欠いたスポロゾイトは,感染性が千分の一以下に低下し事実上蚊からの感染が不可能になる。この事実は細胞通過に関わる分子を標的とした感染阻止法の可能性を示唆している。また肝実質に侵入したスポロゾイトは肝細胞に寄生するが,この肝細胞の特異的認識に関わる原虫蛋白質の存在を明らかにした。これらの蛋白を欠いた原虫は,肝細胞を認識することが出来ず,したがって感染にコミットすることができない。したがって,これらの分子も感染阻止の有望な標的である。さらにマラリア原虫スポロゾイトとオオキネートの両ステージは極めて類似した感染機構が存在売ることを明らかにした。本研究では以上の様に,肝臓への感染機構の全体像を解明することができた。これらの知見は今後肝臓感染過程に関与する分子を標的とした新たな感染阻止法の可能性,特に抗体による感染阻止の可能性を示唆している。
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