研究概要 |
ヒト腸管上皮細胞由来の培養細胞(Caco-2)を大量培養し腸内細菌の増殖に及ぼす因子を検討する過程で、アッセイ系に持ち込む血清濃度により結果が大きく変化する事に気付いた。ウシ及びヒト血清濃度が0.04〜0.6%(ヒト血清の場合)、0.3〜1.25%(牛血清の場合)で腸炎ビブリオの増殖が抑制される作用が見られ、それ以上の血清濃度では逆に、増殖促進作用が見られる事が明らかになった。興味深いことに、Fetal calf serumにはこの抑制活性は検出されなかった。促進因子は分子量3,000以下で100℃の加熱に耐えるのに対して、抑制因子は加熱で失活し、分子量(ゲル濾過で推定)は60から70KDaと推定された。抑制因子をFPLCを含む各種カラムクロマト法で精製し、N末端アミノ酸配列を決定することでトランスフェリンとヘモペキシンと同定された。これら2つのいずれもが抑制活性を有した。これらの抑制作用は病原菌を鉄イオン欠乏に至らしめ、増殖阻害活性を示すと考えられた。一方、ウシ血清中に存在する腸炎ビブリオの増殖促進因子も各種カラムクロマト法でほぼ精製に成功しており、Mg++イオンを有する低分子量の分子と思われる結果を得た。詳細は現在解析中であるが、この作用はヒト血清中にも存在する。これらの因子(あるいは類似因子)が腸管内に分泌され腸炎ビブリオの増殖に影響を与えることが、腸炎ビブリオの神奈川現象の逆転のメカニズムの一つの要因であるかもしれない。
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