研究概要 |
病原性大腸菌である腸管出血性大腸菌(EHEC),腸管病原性大腸菌(EPEC)は,共にIII型分泌装置を介してエフェクターと呼ばれる病原因子を宿主細胞内に注入し,宿主に移行したエフェクターと宿主側因子が相互作用することで下痢を惹起することが知られている。本研究はEHECのエフェクターをバイオインフォマティクスの手法を用いて網羅的に同定し,同定されたエフェクターの機能を解析することで,下痢発症の機序を分子レベルで解析することを目的としている。エフェクターの網羅的解析により宿主に移行するエフェクターを8個同定し,これらのエフェクターを2ハイブリッドシステムにて解析したところ, NleCとEspJエフェクターはそれぞれ,リボソームタンパク質S10とフィラミンAと相互作用することが示唆された。リボソームタンパク質S10は宿主翻訳系に関わる因子であることから,ウサギの網状赤血球ライセートを用いて精製NleCが翻訳系に及ぼす影響をin vitroで解析したところ, NleCの添加量に比例して翻訳効率が低下することを明らかにした。また, NleCクローンを細胞に導入しLDHリリースアッセイを行ったところ,細胞傷害を誘導した。以上, NleCはリボソームタンパク質S10を介して宿主翻訳系に影響を及ぼし,細胞傷害を誘導することが示唆された。一方, EspJはフィラミンAと相互作用していることを明らかにした。 HeLaを用いた感染実験にてフィラミンAの局在を調べたところ,菌の付着下部に形成される台座様構造に蓄積していることが明らかとなった。しかしながらEspJ欠損株を用いて同様な実験を行ったところ, EspJ欠損においてもフィラミンAの蓄積は認められた。 EspJとフィラミンAの相互作用により誘導される宿主側のアウトプットは不明であるが, EspJは台座様構造におけるフィラミンAの局在には関与しないことが明らかとなった。
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