本研究の目的は、トリインフルエンザウイルスと同様にシアリダーゼ活性のlow-pH安定性を保持する1957年(アジアかぜ)と1968年(香港かぜ)のパンデミックウイルスに見出されたNAの性質が、新型インフルエンザウイルスの出現や伝播にどのように関与しているのかを明らかにするものである。昨年度までにスペインかぜウイルスNA遺伝子のcDNA遺伝子を用いて発現ベクターを構築し、このNA発現細胞によるシアリダーゼ活性の解析からスペインかぜウイルスNA遺伝子が、10w-pH安定性を保持することを見出している。そこで、シアリダーゼ活性のlow-pH安定性を保持していないH1N1型エピデミックウイルス株のNA遺伝子と塩基配列を比較し、部位特異的アミノ酸変異により作製したNA発現細胞を用いて、スペインかぜNAのlow-pH安定性を規定するアミノ酸領域を明らかにした。さらに、NAタンパク質を単独で lysosome内に導入した場合でも、細胞のアポトーシスが誘導されるのか調べるために、昨年度に引き続き、NA遺伝子のcDNA遺伝子を用いて、バキュロウイルス発現系による可溶性NA糖タンパク質の作製を試みた結果、NA糖タンパク質を大量に作製する方法を確立することに成功した。また、シアリダーゼ活性のlow-pH安定性のみが異なるNA遺伝子を有し、他の遺伝子は同一である組換えウイルスの増殖性を3種類の細胞株間で比較した結果、loW-pH安定性が異なるNAを有するウイルス株間の増殖性の差は、宿主細胞側のファクターに依存することが示唆された。
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