免疫システムにおける自己-非自己識別機構の人為的な制御は自己免疫疾患の治療、移植免疫寛容誘導、癌免疫誘導など様々な臨床的応用に期待できる。申請者は、胸腺髄質上皮細胞の分化とそれによる自己免疫寛容誘導の分子メカニズムを解明し、自己免疫疾患治療や癌免疫誘導の新規方法論を創造することを目指している。申請者は既にTRAF6が胸腺ストローマ依存的な自己免疫寛容の誘導に必須であることを証明した。本研究課題では胸腺ストローマにおけるTRAF6依存性シグナルの標的分子および上流のレセプターとリガンドを同定し、それら分子の自己免疫寛容への関与を検証することを目的とした。 胸腺ストローマにおけるTNFレセプターファミリーの発現を半定量的RT-PCRで網羅的に解析し、TRAF6の上流レセプター候補としてRANKとCD40を得た。各レセプター単独の欠損ではTRAF6欠損マウスの表現型より緩和であるため、TRAF6の上流レセプターとしては不十分であった。しかし両者を欠損するマウスを作製し、解析することでRANKとCD40の両者が協調的に機能することで胸腺髄質上皮細胞を分化させ、その結果自己免疫寛容を誘導すると結論した。さらにRANKやCD40のリガンドは未熟な髄質上皮細胞を含む胸腺ストローマin vitroで分化誘導に十分であった。この実験系を用いて、RANKとCD40の下流にTRAF6やNIKが存在することを証明し、当初の目的であった「胸腺髄質上皮細胞の分化を誘導するTRAF6の上流レセプターの同定」を完遂した。さらにマイクロアレイ法によりTRAF6シグナルの標的遺伝子を決定した。これらは、胸腺依存的な自己免疫寛容の誘導機構の理解において重要な結果であると考える。
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