ヒトを含む脊椎動物の生体防御に中心的役割を担うTリンパ球は胸腺にて分化する。Tリンパ球の胸腺分化には、前駆細胞の胸腺への移入、胸腺皮質にて正の選択を受けた幼若Tリンパ球の髄質への移動、そして成熟Tリンパ球のみの胸腺からの移出といった精緻でダイナミックな細胞移動が伴う。このような細胞移動がTリンパ球分化に伴うことは以前から認められていたが、その分子機構については、器官内や器官間の細胞移動解析技術が困難であったことなどから長く不明であった。近年、生体内細胞動態解析技術の飛躍的進展も相侯って、ケモカインや接着因子を介した胸腺細胞移動機構の大要が明らかにされつつある。本研究では、胎仔期Tリンパ球前駆細胞の胸腺原基への移住に2つのケモカインCCL21とCCL25が関与するとの予備実験の結果をもとに、これら2つのケモカインを介したシグナルがT前駆細胞の胸腺移入に必須かどうか解析した。具体的には、CCL21受容体CCR7のノックアウトマウスとCCL25受容体CCR9のノックアウトマウスを交配してCCR7/CCR9ダブルノックアウトマウスを作製し、胎生期から成体期に至る胸腺へのT前駆細胞の集積を解析した。その結果、胸腺内に血管が形成されるまでの胎生期胸腺原基への移入はCCR7/CCR9ダブルノックアウトマウスで正常マウスの約2%以下と著しく障害されていたが、胸腺内血管形成後の胸腺移入には障害がないことが示された。また、胸腺原基に発現されるCCL25と異なりCCL21は胸腺原基ではなく胸腺原基近傍の副甲状腺原基に発現されることが示された。これらの結果から、胎生期胸腺原基への血管非依存性のTリンパ球前駆細胞集積にはCCR7とCCR9の2受容体を介したケモカインシグナルの連携が必要である一方、これらケモカインシグナルは胎生後期以降の血管依存性の前駆細胞胸腺移入には不要であることが明らかになった。
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