研究課題
基盤研究(B)
ヒトを含む脊椎動物の生体防御に中心的役割を担うTリンパ球は胸腺にて分化する。Tリンパ球の胸腺分化には、前駆細胞の胸腺への移入、胸腺皮質にて正の選択を受けた幼若Tリンパ球の髄質への移動、そして成熟Tリンパ球のみの胸腺からの移出といった精緻でダイナミックな細胞移動が伴う。このような細胞移動がTリンパ球分化に伴うことは以前から認められていたが、その分子機構については、器官内や器官間の細胞移動解析技術が困難であったことなどから長く不明であった。近年、生体内細胞動態解析技術の飛躍的進展も相俟って、ケモカインや接着因子を介した胸腺細胞移動機構の大要が明らかにされつつある、本研究では、胎仔期Tリンパ球前駆細胞の胸腺原基への移住に、胸腺原基と副甲状腺原基にそれぞれ発現されるケモカインCCL25とCCL21が関与することを見出し、これらケモカインシグナルは胎生後期以降の血管依存性の前駆細胞胸腺移入には不要であることを明らかにした。また、未熟リンパ球特異的に蛍光蛋白質を発現するトランスジェニックメダカを作出することで、国際的にも初めて胸腺内Tリンパ球の動態の生理的リアルタイム観察を実現した。その結果、胸腺内へ血管が伸長する以前のT前駆細胞の移入は方向限定的に起こり複数のケモカインが関与すること及び胸腺内血管形成後のT前駆細胞の移入は血管を介して複数方向性に起こることを明らかにした。更に、胸腺皮質内Tリンパ球は成熟に応じて運動性を獲得することを示し、皮質Tリンパ球の旺盛な運動はレパトア選択のために能動的に起こる可能性を示した。これらの結果は、胸腺細胞の移動がTリンパ球の分化と選択にどのような意義をもつかその一端を明らかにし、胸腺における中枢性免疫システム形成の生理的機構の解明ばかりでなく、自己免疫疾患の治療と細胞移植再生医療の確立に向けた医療の進展に向けて有用である
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