本研究は、医療における有害事象の発生によって投入された医療費または資源にどの程度の増加・変動が生じたかを把握するとともに、回避可能であった有害事象に着目してその防止のために必要となる資源または費用を推定することで、事故防止と医療の質保証のために投入されるべきコストのあり方を検討することが目的である。初年度の本年は、これまでに蓄積された事故事例を分類・区分し、その種別と重症度などについて取りまとめるとともに、頻度が高く医療費への影響が大きい有害事象の種別、あるいは資源投入量の多い分野を選定し、手術を含む治療・処置、および転倒・転落等の療養の世話を中心に分析を進めることとした。今年度の検討の対象として事例は243病院からの357例で、その分析結果は第23回国際カンファランスISQua(ロンドン)で報告した。また、同カンファランスで先進国における医療安全とコストに関する研究の動向を調査した。一方、有害事象発生事例の医療費分析などに理解と協力の得られる病院16施設の医療安全管理統括責任者の参加を得て、医療安全の専門家を加えた研究協力者会議を組織して、調査研究の体制の整備を行った。そして、先行して3病院を対象に、医療安全確保のためにどの程度の予算投入を行っているかについて試行的に訪問調査を行った。医療安全のための予算費目の分類や範囲、あるいは人件費の按分などは必ずしも容易ではないことが明らかとなり、安全確保に向けた予算とコストの分析のために適切な会計モデルの作成が必要であることが認識された。次年度以降は、研究協力病院に個別的な検討課題を設定して分析を進める予定である。
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