研究概要 |
我々はこれまでの研究で、深部静脈血栓症を発症する多くの日本人の患者は、主要な凝固制御系であるProtein S・Protein C凝固阻止活性が低下していることを見出した。この活性低下は欧米白人の約5-10倍の頻度で起こっている。欧米白人の場合も特有の危険因子を持っているが、その因子はFactor V Leidenと呼ばれる凝固系第5因子の一種の多型である。このFactor V Leiden分子は、凝固活性は全く正常であるが、Protein S・Protein C凝固阻止活性に抵抗を示す分子で、現象的には、相対的なProtein S・Protein C凝固阻止活性低下を呈していることになる。Factor V Leidenが欧米白人の血栓性素因として明らかになった直後から、欧米白人以外の人種にはこの遺伝子多型が存在しないことが判明し、他人種での血栓性素因が何であるのか問題になっていた。我々の研究は、日本人の場合はProtein S・Protein C凝固阻止活性低下力が血栓性素因であることを明確にしたものである。類似の報告が中国人でも発表されている。日本人のProtein S・Protein C凝固阻止活性低下の原因はその大半がProtein S・Protein C遺伝子異常である。このような背景の下で、本研究は血栓症の発症予防・治療を目的として、Protein S・Protein C凝固阻止活性低下の治療薬の開発を行っている。 本年度の研究で我々が見出したことは、これまで凝固活性・凝固阻止活性に余り影響がないと思われていた、phosphatidylcholine(PC), phosphatidylethanolamine(PE), lysophosphatidylcholine(LPC)が凝固活性・凝固阻止活性に強い影響を示したことである。特に、PEが向凝固活性を阻害し、凝固阻止活性には影響を与えない現象は注目に値することであり、PE-rich liposomeが深部静脈血栓症発症初期の患者の治療薬になる可能性を示唆している。
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