研究概要 |
感染症および慢性炎症は極めて重要な発がん因子であり、感染・炎症関連発がんのリスクを早期に評価する方法の確立が急務である。炎症条件下では活性酸素・窒素種が生成され、8-oxodGや8-ニトログアニンなどの変異誘発性DNA損傷塩基を生成して発がんをもたらす。タイとの国際共同研究では、胆管癌を起こすタイ肝吸虫の感染者や癌患者で尿中の8-oxodG量が有意に増加すること、抗寄生虫薬投与により8-oxodGが減少することを明らかにした。非ステロイド性抗炎症薬であるアスピリンは、シクロオキシゲナーゼ阻害により大腸癌リスクを下げると考えられ、がん化学予防薬として期待されている。しかし最近のコホート研究では膵臓がんのリスクを上昇させる可能性が示唆されていることから、発がん性の評価を目的として、アスピリン代謝物のDNA損傷性を検討した。その結果、代謝物の2,3-dihydroxybenzoic acidが、DNA断片化および遺伝子突然変異を起こすことが明らかとなり、培養細胞中では8-oxodG生成量の増加が認められた。アスピリン代謝物が発がんリスク上昇に寄与する可能性が示され、さらに8-oxodGがリスク評価に有効であることが示された。アスピリン服用者の尿・血液を用いた詳細な検討が必要である。またアスベストを気管内投与したマウスでは、アスベストにより肺組織で慢性炎症が惹起され、活性酸素・窒素種が産生されて、8-oxodGや8-ニトログアニンが生成することが明らかとなった。感染以外の物理化学的要因による炎症においても、8-oxodGや8-ニトログアニンが発がんリスク評価の新規バイオマーカーとして応用できる可能性が示された。バイオマーカーとしての8-oxodG解析法は、ほぼ確立することができたn8-ニトログアニン解析法は現在検討中である。
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