広範な産業分野において振動工具が使用されており、先進工業国では国民の2〜3%が職業性振動暴露による健康障害のリスク下にあると推定されている。振動障害(手腕振動症候群)の予防対策に関して、わが国は30年以上にわたる研究の蓄積と実践の経験を有している。しかし、手腕振動曝露の生体影響評価と予防対策に関し、特に解決を要する課題として手腕振動症候群の病態、特に臨床所見との関連、信頼性の高い診断方法の確立、手腕振動の生体影響における振動特性と生理学的機序の検討が残されている。 本年度は、過去2年度に引き続き手腕振動症候群患者と健常対照者を対象とした、ISO方式を用いた数種類の末梢循環障害と末梢神経障害の検査として12℃冷水を用いた両手浸漬手指皮膚温検査、300℃、15℃、10℃の片手4指中節冷却負荷による手指血圧検査、4Hz、31.5Hz、125Hzの3周波数による手指尖振動感覚閾値検査、また、わが国で一般に行なわれる10℃冷水を用いた一側手浸漬手指皮膚温検査、125Hzのリオン式手指尖振動感覚閾値検査、部位を区分した上肢神経伝導検査を行なった成績を解析した。さらに、人を対象として把持力と温度の調節が可能な加振ハンドルを用いた急性振動負荷実験を手指皮膚温とを手指血流(熱勾配式血流計とレーザ血流計)を指標として行ない、周波数依存性および振動強度依存性を解析した。 以上の成績にこれまでの研究知見を併せた総合的な解析を加え研究成果を公表するとともに、研究代表者等により開催した検討会や研究会において国内外の関連研究者と研究交流を行ない、手腕振動症候群の診断と体系的予防のあり方について検討し、さらに継続中である。
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