研究概要 |
本研究では重金属による発癌性に着目し、in vitroにおいて生活環境で長期間曝露の可能性のある重金属、さらには産業現場で曝露の機会があり発癌性が懸念される重金属のNOAEL付近の低濃度複合曝露による細胞への影響の基礎データを得ることを目的とする。被検金属には遺伝子損傷性の重金属であるクロム、コバルト、カドミウム、砒素を用いた。金属を組み合わせ、遺伝毒性に関するいくつかの指標を検討し、それらの相加性からの逸脱の有無を検証した。 DNA損傷評価(コメットアッセイ)において、4つの金属それぞれでDNA損傷の量影響関係が確認できた。As,Crの最小影響量(LOAEL)はAs,Crの職業曝露により血液細胞のDNA損傷が増加したときの血中濃度に近い値であった。同様にCd、CoのLOAELは職業曝露時の血中濃度と比較すると非常に大きい値であった。LOAELの半分量で二成分の複合曝露を行った結果、単独曝露群と複合曝露群で有意な差はどの組み合わせでも認められなかった。アイソボログラムアナリシスにおいてはCo,Crの組み合わせでは等効線付近にプロットされ、AsとCr、またはCoの組み合わせにおいては等効線より高い濃度にプロットされることがおおかった。 本研究の結果からLOAEL付近での複合曝露においては相加より大きい反応は確認できず、低濃度では最大で単独曝露の相加という仮説があるがそれを支持する結果であった。 本研究はNOAEL付近の低濃度の重金属複合曝露による細胞の反応を評価するのが最大の特色である。本研究により、実際の曝露環境に近い濃度における重金属複合曝露影響のリスクアセスメントに有用なin vitroの実験結果を提供し、従来の「NOAEL付近での複合曝露の影響は最大で相加」という説に科学的証拠を付与することとなった。
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