欧米では薬物依存症に対し、多様な心理療法プログラムが多く開発され、その有効性に関する研究が施行されている。日本でもいくつかの先駆的な試みはあるものの、多くの機関で導入できるようなプログラムの公開やその効果の研究は行われていない。本研究は、欧米のプログラムを参考として、本邦の薬物依存症に対する心理プログラム、特に認知行動療法のプログラムを作成し、その効果を複数の施設に於いて実行し、その有効性を明らかにするものである。開発したプログラムは、(1)再発防止に焦点をおいたプログラムと、(2)うつや不安などの感情的な問題を合わせ持つ女性薬物依存症に対するプログラムの2種を作成した。このうち(1)については民間の薬物依存症社会復帰施設の男性入寮者20名に対して実際に施行し、介入前後の変化を、介入群と対照群で比較した。その結果、渇望感は両群とも変化しなかったが、薬物依存に対処する自己効力感尺度は有意な得点の上昇を認めた。プログラムの感想でも大半の参加者で高い満足度を持てていた。一方、(2)のプログラムは、精神病院通院中の女性患者に施行している。こちらはまだ結果は出ていないが、参与観察によれば対象としている女性薬物依存症者では薬物自体に対する介入では不十分で、その使用の背景にある感情や対人関係の問題に焦点をあてることが不可欠であることが認められている。 以上より本邦の薬物依存症者においても認知行動療法のプログラムが有効であることが明らかになりつつある。一方、日本の患者の場合、薬物依存の根底にあると思われる陰性の感情体験について言語化し検討することが難しい面があり、認知行動療法の手法に非言語的な働きかけ(絵画や身体を用いたワーク等)を加えるなどの工夫が必要であった。更に、平成19年度には刑務所内の薬物事犯を対象にプログラムの有効性を検証する予定であり、そのマニュアルの作成も平成18年度内に行った。
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