我々はこれまで、H.pyloriが胃粘膜上皮細胞に接着すると、CagAがH.pyloriから胃粘膜上皮細胞内へと注入され、上皮内でCagAがチロシンリン酸化を受け、細胞の増殖や分化に重要な役割を担う細胞質内脱リン酸化酵素SHP-2と結合することを報告してきた。したがって、CagAを持つH.pyloriの感染は、ヒト上皮細胞のシグナル伝達系を刺激し、細胞増殖に影響を及ぼし、胃発癌に関与すると考えられた。また、cagA遺伝子はSHP-2結合部位に一致し多型性を示し、東アジア株に特異的な配列を認め、東アジア型のCagAは欧米型に比べSHP-2との結合が強いことを認めた。今回、CagAの多型の臨床的意義を解析するため、胃癌死亡率の異なるアジア地域(男人口10万対、兵庫:43.7、沖縄:18.2、中国:36.7、ベトナム:12.8、タイ:3.3)の菌株のCagAを検討した。<方法>兵庫株65(胃炎36、胃癌29)、沖縄株49(胃炎38、胃癌11)、中国株25(胃炎20、胃癌5)、ベトナム株20(胃炎10、胃癌10)、タイ株26(胃炎15、胃癌11)を用い、cagA遺伝子の塩基配列を決定した。また、CagAのタイプと胃粘膜萎縮との関係を組織学的に検討した。<結果>胃癌死亡率と東アジア型CagAの頻度との間に相関が認められた。福井、中国、ベトナム株の全ては東アジア型のCagAであった。一方、沖縄では胃炎株の15.8%はCagA陰性、15.8%が欧米型、68.4%が東アジア型であり、胃癌株は全て東アジア型であった。タイでは胃炎株の86.7%が欧米型、13.3%が東アジア型で、胃癌株の36.4%が欧米型、63.6%が東アジア型であった。沖縄およびタイの胃炎例では、東アジア型のCagAを有する株の感染例において、欧米型のCagA感染例に比べ胃粘膜萎縮度が有意に高度であった。<結論>東アジア型CagAは胃粘膜萎縮及び胃発癌に関与することが考えられた。
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