研究概要 |
本研究では、遺伝子変異やDNAメチル化、ヒストン修飾異常などの核内分子の網羅的に解析することにより、消化器癌の早期診断や発癌リスク予測に有用な、新しい分子マーカーを開発し、臨床応用することを目的とする。これまで、WNTやRASシグナルの制御因子が大腸癌、胃癌においてDNAメチル化により不活化されることを報告してきた(Oncogene,2007,;Carcinogenesis,2007)。本年度は、発癌高危険群である皺襞肥大型胃炎におけるゲノムワイドなメチル化レベルを解析し、発癌高危険群の分子マーカーとしての応用を試みた。LINE-1メチル化レベルはHP非感染(HP-)57%、HP感染・皺壁肥大陰性(HP+/EF-)56.6%、HP感染・皺襞肥大(HP+/EF+)53.5%でHP+/EF+で低下した(P<0.0001)。CDH1、CDH13、PGP9.5メチル化レベルはHP-と比べHP+/EF-で上昇(P<0.0001)、HP+/EF-とHP+/EF+ではCDH1のみが上昇(P<0.001)した。各メチル化レベルは正の相関を示し(P<0.0001)、LINE-1と負の相関を示した(P<0.05)。胃癌ではLINE-1メチル化レベルは平均53%で慢性胃炎に比べ低下し(P<0.01)、LINE-1低メチル化を認める症例でp53変異を高率に認めた(P<0.01)。今回の検討から慢性胃炎でLINE-1低メチル化とCDH1、CDH13、PGP9.5の異常メチル化は相関を認め、発癌過程においてはゲノム全体の低メチル化と関連して局所的高メチル化が起こることが明らかとなった。癌におけるゲノムワイドな低メチル化は、クロマチン構造の異常を引き起こし、染色体不安定性を誘導すると考えられており、LINE-1メチル化レベルは発癌高リスク群の予測に有用であると考えられた。
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