研究概要 |
核内受容体型転写因子であるPPARγは脂肪細胞や大腸癌細胞などに多く発現しており,大腸癌細胞では細胞増殖抑制・分化誘導・アポトーシス誘導作用などが明らかにされている.われわれはこれまでPPARγリガンドがNF-κB活性を抑制し腸管の炎症を抑え,アゾキシメタン化学発癌モデルマウスにおいて発癌を抑制し,PPARγ阻害剤が培養癌細胞の増殖を抑制することを発見した.さらに大腸癌と関連が指摘されている肥満や糖尿病など生活習慣病の因子と拡大内視鏡により観察したヒトACFとの相関を検討し,ACFをメルクマールとしたPPARγリガンドの作用解析を検討した.下部消化管内視鏡検査を行った101例に対しACFを観察し問診,採血,腹部CT検査を行い,ACFの個数と各因子との相関を解析したところACFと肥満,特に内臓脂肪型肥満は特に強い相関を認めた.このメカニズムとして内臓脂肪の分泌するアディポネクチンなどのアディポサイトカインの関与,さらにこれらが細胞増殖に積極的に関与している可能性が示唆された.他方,免疫組織学的検討においては大腸正常粘膜に発現を認めたアディポネクチンが腺腫・癌において低下する傾向を発見しており内臓脂肪の分泌するアディポネクチンが大腸発癌に関与することが示唆された.また同意の得られた20症例に対し1〜8ヶ月間PPARγリガンドを投与したところACFが減少する傾向を認めた.一般に大腸癌化学発癌予防は癌の発生・消失をメルクマールに行うため長い時間と費用を必要とする研究になるが,与えられた短期間で臨床研究成果を出すためACFを用いたのは大変有用であった.またACFは大腸前癌病変と考えられておりこれが内臓脂肪型肥満など生活習慣病と関連することから,これらメカニズムの詳細な解析が大腸癌の罹患率・死亡率を低下しうることが示唆された.
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