肝細胞癌の発生・進展に関与し、かつ治療の標的分子となり得る遺伝子を明らかにするために、これまでCGH (comparative genomic hybridization)法による網羅的DNAコピー数解析を行ってきた。しかし、CGHの解像度は5〜10Mbレベルと決して高くはなかった。そこで新たに高密度オリゴヌクレオチド・アレイを導入し、肝細胞癌に生じたDNAコピー数変化の解析をさらに推進することとした。 方法としてAffymetrix社のGeneChip 100Kアレイを用いた。このアレイは、全ゲノムをカバーする約12万個のSNP (single nucleotide polymorphism)特異的プローブを搭載しており、元々は大規模SNPタイピングを目的にした高密度アレイであるが、癌に生じたDNAコピー数の変化(特定染色体領域の増幅・欠失)を極めて高い解像度(平均23Kb)で検出することもできる。 今年度は、このアレイを用いて、肝細胞癌由来細胞株20株を対象に解析を行った。その結果、従来のCGHでは検出不可能であった微細な新規遺伝子増幅領域やホモ欠失領域と検出することができた。例えば、第1番染色体長腕の1q21領域に新規の遺伝子増幅を検出した。1q領域は肝細胞癌において最も頻度が高い増幅領域であるが、増幅メカニズムによってその発現と機能が亢進する遺伝子(増幅の標的遺伝子)は明らかにされていなかった。われわれは1q21増幅領域を700Kbの範囲に絞り込み、その領域内にある26遺伝子をすべて調べた結果、そのうちの3遺伝子を1q21増幅の標的遺伝子候補であると同定した。同様に、17p11領域に新規の遺伝子増幅を検出し、その標的遺伝子としてMAPキナーゼ・カスケードに関与する遺伝子を同定した。
|