肝細胞癌の発生・進展に関与し、かつ治療の標的分子となり得る遺伝子を同定するために、全ゲノム領域を高密度に網羅するオリゴヌクレオチドアレイを用いて、肝細胞癌に生じたDNAコピー数の変化(特定染色体領域の増幅・欠失)を探索した。 その結果、DNAコピー数の増加を1q、8q、20qなどに高頻度に認めた。一方、コピー数の減少を4q、8p、9pなどで高頻度に認めた。そして、これまでに報告のない新規の遺伝子増幅あるいはホモ欠失領域を複数検出することができた。そのうち、1q21増幅領域について、増幅メカニズムによってその発現が亢進する遺伝子(増幅の標的遺伝子)として、CREB/ATFファミリーに属するCREB3L4など3遺伝子を同定した。また、17p11増幅の標的遺伝子としてMAPK7を同定した。MAPK7がコードするERK5はMAPキナーゼファミリーの一員であり、MAPK7の遺伝子増幅によるERK5の発現と機能亢進は、細胞周期G2/M期の進行を制御することで、肝細胞癌細胞の増殖を促進した。MAPK7(ERK5)の発現をRNAiで抑制すると肝細胞癌細胞の増殖が抑制されたので、MAPK7(ERK5)は肝細胞癌の治療標的分子の候補になり得る可能性が示唆された。 肝細胞癌に生じたゲノム異常(DNAコピー数変化)を指標に癌関連遺伝子にアプローチする本研究は、肝発癌の機序解明と治療標的分子の同定に有用と考えられた。
|