研究概要 |
心不全はさまざまな心臓疾患が原因となっておこる臨床症候群であり,欧米型のライフスタイルが一般的になり虚血性心疾患が増加するにつれ心不全罹患患者数も増加傾向にある.しかしながら、心不全については多くの基礎研究がこれまでなされているものの、その発症機構についてはいまだ不明な点が多い.また、β遮断薬やACE阻害薬などの薬物療法の有効性が臨床的に証明され広く一般に使用されるようになっているが,心不全による死亡率は依然高く,悪性腫瘍と同等もしくはそれ以上の累積死亡率を示すことが知られている.したがって心不全の発症機構を解明し,あらたな治療戦略を開発することは循環器病研究における重要なテーマであると考えられる.本研究では研究代表者が開発した発現誘導型Aktトランスジェニックマウスの実験系を用いて,(A)病的心肥大が心機能低下をひきおこす機序,(B)病的心肥大と生理的心肥大の違いを決定する因子,(C)Akt活性化による心不全治療の可能性,の3点について明らかにすることを目的とする.本年度は(A)および(B)を中心に検討した. (A)病的心肥大が心機能低下をひきおこす機序 病的心肥大では冠動脈の血管新生が障害されており,心筋組織が虚血状態になることが心機能低下の原因の一つと考えられた.また,血管新生障害の原因として,通常心肥大時に発現が亢進するVEGFなどの血管新生促進因子が病的心肥大では発現していないことが明らかになった. (B)病的心肥大と生理的心肥大の違いを決定する因子 生理的心肥大および病的心肥大から得られた心筋組織を用いてDNAマイクロアレイによる解析を行なったところ,多くの遺伝子が生理的心肥大と病的心肥大ではその発現パターンが異なることが明らかになった.今後いくつかの候補遺伝子を選定し,さらに解析を進める予定である.
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