研究概要 |
本年度は昨年に引き続き発現誘導型Aktトランスジェニックマウスを用いて, (A)病的心肥大が心機能低下をひきおこす機序, (B)病的心肥大と生理的心肥大の違いを決定する因子,(C)Akt活性化による心不全治療の可能性,の3点について明らかにすることを目的とした.(A)病的心肥大が心機能低下をひきおこす機序病的心肥大においてはVEGFなどの血管増殖因子の発現低下が心機能低下の原因となっていることが明らかになった.また,増殖因子やAkt活性化によるVEGF発現誘導はrapamycinによって抑制されることから,Akt-mTOR経路の機能障害が病的心肥大における心機能低下の原因のひとつであると考えられた.(B)病的心肥大と生理的心肥大の違いを決定する因子昨年度のDNAマイクロアレイの結果から,糖脂質代謝経路に関連する分子が病的心肥大と生理的心肥大の差異を決定する要因となっている可能性が示唆された.実際に脂肪酸β酸化酵素の遺伝子発現を誘導するPPARαとPGC-1αの発現がAkt活性化により減少しており,生理的心肥大時における心機能維持はAktによる糖脂質代謝制御を介したものであると考えられた. (C)Akt活性化による心不全治療の可能性圧負荷あるいはdoxorubicinによる心不全モデルを作成し,心機能低下が明らかになった時点でAktを活性化したところ,これらのモデルにおいて心機能の有意な改善が認められた.以上の結果は,心筋におけるAktの活性化が心不全の新たな治療戦略となる可能性を強く示唆するものと考えられた.
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