ポリグルタミン病は神経細胞の核内部に異常タンパク蓄積による封入体形成がおきる。この時に、周辺の正常核タンパクが全体としてどのような量的変動を示すかは、これまで全く知られていなかった。そこで、私たちはプロテオミクス解析を用いて正常核タンパクの変動を解析することにした。対象とするサンプルは、初代培養神経細胞(大脳、小脳、線条体)にアデノウイルスベクターで正常ならびに異常型のポリグルタミン蛋白(ハンチンチン、アタキシン1)を発現させ、これらを集めて核エキストラクトを調整した。これらには凝集した異常蛋白はほとんど含まれておらず、可溶性の核蛋白分画に相当している。これを2次元電気泳動にかけて解析を行い、如何なるスポットの発現が変化しているかを検索した。一方で、2次元電気泳動にあらわれるスポットについて質量解析を用いて同定を試みた。 この結果、異なる初代培養神経細胞が2種類のポリグルタミン蛋白を発現する6種類の組み合わせに付いて、プロテオームデータを比較することが可能となった。結果として、私たちはどちらかのポリグルタミン蛋白に脆弱な神経細胞では、いずれもHMGB蛋白の減少が見られることを見い出した。さらに、HMGB蛋白の減少は細胞機能の異常と細胞死に相関し、また、HMGB蛋白の補充は差これらの障害を防ぐ作用があることを観察した。これらの実験結果からHMGB蛋白は新しい病態分子であり、治療開発のターゲットとなる可能性が示唆された。
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