研究課題
平成20年度も前年度から継続して筋萎縮性側索硬化症(ALS)の分子病態解明と新規の診断・治寮法の開発を目的として研究を行った。ALS病態研究として、近年提唱された、遺伝子の転写阻害による緩徐な神経細胞死の誘導、すなわちTRIAD( transcriptional repression-induced atypical death )とALSにおける神経細胞変性機序との関連を検討した。ALSモデル動物であるG93A変異型SOD1遺伝子導入トランスジェニックマウス(Tg)を用いて、TRIAD調節分子であるYAPdeltaCとp73の二つのタンパクに着目して、これらの因子のALS病態への関与を検討した。Tgの脊髄前角において、運動ニューロン数に対する全長-YAP陽性細胞の割合は野生型との間で差がなかったが、神経細胞特異的に発現するYAPアイソフォームであるYAPdeltaC陽性細胞の割合はTgでは発症前から低下していることが確認された。また、p73はTg、野生型マウス共に運動ニューロンに発現し、Tgマウスでは一部のp73がリン酸化され、YAPdeltaCとリン酸化p73の共局在も一部の運動ニューロンに認めた。以上より、ALSモデルマウスの運動ニューロン死において、p73のリン酸化とYAPdeltaCの早期からの減少が関係している可能性が本研究により初めて示された。また、ALSの新規治療法開発を目指した研究として、細胞膜や血液脳関門の通過性を持つHIV-1のTAT蛋白由来のprotein transduction domain (PTD)と、強力な抗アポトーシス作用を有するFNK蛋白を融合したTAT-FNK蛋白を、ALSモデルマウスの脊髄腔内にosmotic minipumpを用いて持続投与し、治療効果を検討した。まず、野生型マウスに7日間、TAT-FNK蛋白または対照としてGFPを融合したTAT-GFP蛋白を持続髄腔内投与したところ、両者とも脊髄運動ニューロンに良好に取り込まれた。また、Tgマウスに28日間、TAT-FNK、TAT-GFPまたは人工髄液の持続髄腔内投与を行ったところ、対照群に比べてTAT-FNKを投与したTgマウスの発症日および生存期間を有意に延長し、clinical scoreも有意に改善した。以上より、TAT融合蛋白の髄腔内投与は目的の蛋白を脊髄内へ導入するための有効な手段と考えられ、ALSモデルマウスへのTAT-FNKの持続髄腔内投与による蛋白治療は、良好な治療効果を示した。これらの研究結果はALS患者への新規治療法の開発へ向けて、臨床応用可能性を支持するデータであると考えられた。
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