平成18年度は(平成17年度のES細胞由来神経幹細胞の最適制御に引き続いて)、内在性神経幹細胞(神経前駆細胞)の最適制御による虚血性損傷脳再生療法の確立を目指して、虚血性脳損傷後に神経前駆細胞から神経細胞新生により神経が再生することが示されている特定の脳領域に注目し、神経前駆細胞の動態を解析した。近年の虚血性損傷脳における神経細胞新生に関する研究では、再生した神経細胞の多くがその後死滅することが明らかにされている一方、運動負荷により海馬の神経細胞の再生が亢進することが示されている。そこで、一過性脳虚血後に運動負荷をすることによる、神経再生に及ぼす影響を検討した。Wistarラットを実験動物として用い、BrdUを一過性脳虚血負荷7日前に投与した。Subgranular zoneならびにgranule cell layerにおいてBrdUでラベルされた細胞が増加しており、BrdU陽性細胞の約80%は神経細胞のマーカーであるMsi1、NeuNが陽性であった。運動負荷(running)の神経再生に対する影響を評価するために同部におけるBrdU陽性細胞を1日目ならびに14日目に計測した。虚血負荷していないラットでは運動負荷によりBrdU陽性細胞は2.2倍に増加した。虚血により同細胞は増加したが、14日目には減少しており、運動負荷により、減少がさらに顕著となった。このことからストレス(虚血)下では神経幹細胞の生着率を左右する要因が通常と異なることが考えられた。 来年度は、体温、血糖、血中酸素飽和度が虚血時の神経幹細胞生着率に及ぼす影響について解析をさらに進めていく予定である。
|