研究課題
まず、糖・脂質代謝に重要な臓器である肝臓が、他臓器の代謝に与える影響を検討するため、組み換えアデノウィルスを用いて、後天的にマウス肝に選択的PPARγ遺伝子を発現させ、肝での代謝を急性に変化させた。PPARγ遺伝子発現により、肝での脂肪蓄積は急激に増加したが、一方で、脂肪組織は縮小した。これは、脂肪分解の亢進によるもので、筋・脂肪組織でのインスリン抵抗性を改善させた。また、全身の基礎代謝の亢進が認められ、結果として、肥満・糖尿病の改善が認められた。つまり、肝にPPARγ遺伝子を発現させることにより、肝から新規抗肥満・抗糖尿病シグナルが発せられて、遺伝子の導入されていない他の臓器・組織の代謝を改善させたものと考えられた。そこで、肝から他臓器に代謝情報が伝達される場合、その経路として、自律神経系を想定した。この肝臓由来の新規抗肥満・抗糖尿病シグナルを解明することを目的として、迷走神経肝臓枝を切断したマウスを用いて同様の実験を行った。肝に選択的PPARγ遺伝子を発現させることにより、迷走神経非切断マウスと同様に、肝での脂肪蓄積は増加したが、基礎代謝の充進、脂肪分解の亢進と脂肪組織の縮小はほぼ完全に抑制された迷走神経にカプサイシンを処置し、求心路のみを遮断したラットにおいても、肝PPARγ発現による脂肪組織の縮小効果は認められなかった。さらに、交感神経β作用を遮断する阻害剤を投与することで、肝PPARγ発現による脂肪分解増加が抑制された。これらから、肝臓由来の新規抗肥満・抗糖尿病シグナルは、迷走神経求心路・交感神経遠心路を介していることが明らかとなった(Science 2006)。次年度は、この経路の生理的意義や治療応用に向けての更なる解明を進めることを計画している。
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